弁護士の選び方

医者の場合、通常の医療であればどこにいっても、最低限の水準は確保されており、当たり外れはそんなにない印象を持っているが、歯医者の場合、当たり外れというか、歯科医の治療に対する考え方で随分違ってくる。
インプラントに慎重な人と積極的な人、対症療法しかしない人と歯周病対策のため予防を重視する人など。
弁護士選びも、歯医者選びに近いかんじだ。
例をあげよう。2月27日朝日新聞の朝刊より。

 大阪市平野区の自宅で姉(当時46)を刺殺したとして、殺人罪に問われた無職大東(おおひがし)一広(かずひろ)被告(42)の控訴審判決が26日、大阪高裁であった。松尾昭一(しょういち)裁判長は、発達障害を理由に検察側の求刑(懲役16年)を上回る懲役20年とした一審・大阪地裁の裁判員裁判の判決を破棄。「犯行の動機に障害が大きく影響しており、責任を軽くする事情ととらえるべきだ」として、懲役14年を言い渡した。

昨年7月の一審判決は、被告を発達障害の一種のアスペルガー症候群と認定。「障害に対応できる受け皿が社会になく、再犯の恐れが強い。許される限り長期間、刑務所に収容することが社会秩序の維持につながる」としていた。これに対し、日本社会福祉士会や日本弁護士連合会などから「障害への無理解と偏見に基づく判決だ」とする抗議声明が相次いでいた。

判決が変更されたのは、当然のことだが、なぜ地裁段階でとんでもない判決になったのか、裁判官自身の無知もさることながら、一審の弁護側にも問題があったことが、同記事から見て取れる。

弁護側も出所後の「受け皿」となる公的機関については主張していなかった。弁護側はこの点を「しておけばよかったと思うが、そこまでの知識や専門性がなかった」と認めた

そして控訴審から弁護人が変更されて、今回の判決になったものである。
このように、弁護士なら皆同じではなく、得意分野や各々の特徴があるのである。たしかに、一定水準以上の法的知識や裁判上の実務に関してなら、どの弁護士でも大差ないだろう、しかし、裁判は個別の具体的な事件を扱うことから、どのような主張をするのか、どのような証拠を出すのか、弁護士の考え方ひとつで大きく変わってくる。
そのことがわかったところで、一般市民はどのように弁護士を選べばよいのか、残念ながら、それは簡単ではない。
以前なら、いわゆる紹介が殆どあったが、広告が解禁されたこともあり、チラシやネットでの弁護士の広告があふれる時代となった。これらはあくまで広告であるので、専門知識を持たない市民は余計に判断に困るのではないだろうか。

もう一つの例は、以前にも紹介した本であるが、これは弁護士選びの観点から読んでもたいへん考えさられる。


まず著者は、別件でたまたま知り合いだったA弁護士に依頼する。しかし、A弁護士の同僚がオリンパスの孫会社の顧問であったことなどからA弁護士は「やりにくい」と漏らすようになったこともあり、労働裁判で有名なB弁護士を加える。しかし「絶対に和解しない弁護士」として紹介されたB弁護士が、和解条項案を作成し、弁護団が裁判所に勝手にFAXする事態となる。そして著者が和解を拒否するとB弁護士らは辞任してしまう。
以前に、弁護士の職責は「依頼者の利益に」だと書いてが、相手が巨大企業だと、それを押しつぶしてまでも和解を強要することもあるらしい。
そんなわけで一審は敗訴し、控訴審で、中村雅人弁護士を団長とする新たな弁護団が結成される。控訴審では、新証拠も提出され、執念の逆転勝訴を勝ち取る(最高裁も上告棄却勝訴確定)。

弁護士選びというのは本当に難しい。
結局は、昔ながらの紹介(口コミ)が一番確実といえるかもしれない。逆に言うと市民の側は、日頃からそういった人脈を築いておいたほうがよい。そうでなければ、弁護士会などの無料相談か、広告に頼るしかなわけだが、無料相談はあくまで入り口で、良い弁護士を紹介してくれるわけではない。広告も、大々的に広告しているものは、パターン化されていて数をこなせる案件だ。可能な限り事務員等が作業を行いコストダウンを行い大量に事件を高速にさばいている。複雑な案件には適していないだろう。
それと、こういうラジオ、テレビ、電車の広告と大々的な宣伝がなぜできるかといえば、それでも十分ペイするからだ。非常に利益率が高いということ。客の側から言えばそれだけむしり取られているということです。依頼する側もそうしたからくりを頭に入れておくべきでしょう。