すべては司法制度改革からはじまった-弁護士受難の時代

※以下の記事にて、弁護士と行政書士との間で、職域をめぐってトラブルになる例もある(いわゆる業際問題)ということを書いており、それは事実なのですが、本来的には弁護士と行政書士とでは、職務の性質自体も異なり、重ならなないという見方もできます。私自身もこの辺りは改めて考えてみて認識の深まった面がありますので、別記事にて述べたいと思います。→行政書士は弁護士とはぜんぜん違う

弁護士数の増加は何をもたらしたか

昨年、司法研修所を卒業した人(65期)のうち,弁護士として活動するために必要な弁護士会への登録を行わなかった人が,全体の約4分の1にあたるおよそ540人にのぼったということです。前年の未登録者数約400人でした。この人達が今後も登録しないままとは限りませんので、安易な評価はできませんが、かつてなかったことであることは確かです。

法科大学院の惨憺たる現実

弁護士数が増えたのに比して、就職口が増えていないことが原因のようです。弁護士数増加の要因は、言わずと知れた司法制度改革にあります。司法制度改革全体は内容は多岐にわたりますが、法曹養成に関しては、予備校や受験指導の弊害を打破するという高い理想と理念のもと、従来の試験だけではなく法科大学院(ロースクール)での履修をメインとするシステムに変更されたわけです。しかし蓋を開けてみれば、法科大学院修了者のうち、7割~8割は合格するはずが、合格率は2割台となっている。これでは法科大学院とは別に予備校や受験指導が不可欠になり、実際そうなっている(ちなみに結果としては、数が増えただけではなく、合格者の質の低下も招いていることはよく知られています(新第60期司法修習生考試における不可答案の概要)。そのため、弁護士事務所の採用基準としても新司法試験の成績などが勘案されるようになり、単に「合格者」というだけでは大きな事務所への就職も困難になっているようです。)(↓参考;「第2章 崩壊する法科大学院」としてこの問題に言及)


もともとは国民にとって司法をもっと身近なものにという理念があり、裁判等の手続きを多くの国民に利用してもらおうという目論見から弁護士数が増やされたわけだが、実際にはこの需要の方はさほど変化が起こっていない。そこへ弁護士の人数だけが増えれば、大変なことになるのは目に見えていた。
同時期に、司法書士には簡裁代理権が付与され、行政書士試験もより法律の理解を問う試験に変化し、いわゆる隣接法律専門職種も位置づけが高まったことから、これら他士業との競争も激化している。司法書士の扱う登記は独自に習得しないといけない部分も多いことから、弁護士との競合は今のところ顕在化していないが、行政書士の業務内容である権利義務に関する書類(契約書、遺産分割協議書など)や事実証明に関する書類(内容証明郵便、株主総会議事録、定款、相続人関係図、家系図など)の作成については行政書士と完全にかぶる。ただし、これらの分野は実は弁護士自身も特別に訓練を受けているわけではなく弁護士に特別に優位性があるわけではない。
裁判については原則、弁護士しか関与できず、特に刑事裁判は弁護士の独壇場であるが、上述のようにこれらの需要自体に現状では限りがある。他に弁護士らしい業務としては大企業のM&Aがらみや国際的な業務などがあるがこれも限りがある。となると、いきおいそれ以外の分野に弁護士も進出せざるを得ない。
こうして、近年では大阪弁護士会が行政書士を弁護士法違反で告発したり、行政書士を扱ったドラマに対してクレームをつけたりということが起こっています。結果としては現状としてはこれらの告発やクレームは不発に終わっています。国家権力の監視役でもある弁護士は余程のことがない限り告発などすべきではないでしょう。しかも、士業の職域は時の政策であり、法律が変われば変わる可能性のあるものです。もちろん、現行法上、違法であることが明らかなことはやってはいけません。行政書士が登記申請するとか、訴訟代理人になるとか、です。しかし、弁護士会が問題にしているのは、示談交渉に関してで、何をもって示談交渉というのか、その見解がひとつに定まっていません。今日では、交通事故の際、保険会社が示談交渉の代理をすることが定着していますが、これなども、弁護士会側からすれば、本来違法であるが条件付きで容認するというスタンスで、実は微妙な部分があるのです。
また、個々の事件においても、相手方に行政書士や社会保険労務士が関与していると、弁護士法違反を言ってくるケースも多いようです。これなど、もちろん本筋の反論ではなく、依頼人への一種の脅しです。(弁護士としては、依頼人の利益を最大にするのがいわば仕事なので、使えるものはなんでも使えということで、言ってくるのでしょうが、こうした事態になるともはや紛争状態で、ここまで来ると行政書士の出番はありません。逆に言うと、泥仕合的なことが、費用と時間をかけて続いていくことになります。現在の日本では、このような解決方法がベストなものだとは思われていません)

これからは弁護士も「普通の資格」に?

これらは、弁護士業界の焦り、余裕の無さの現れでしょうが、こんな他士業への嫌がらせのようなことが本質的な解決にならないことは明らかです。一切の元凶が司法制度改革にあることが明白である以上、関係者が手を携えて司法制度改革自体を改めて改革するしかない。近年の動きを見ても、一票の格差の問題、肝炎訴訟等、弁護士の果たす役割は極めて大きいです。問題自体を提起し、政策をも動かしていく、こうした仕事に弁護士が安心して取り組めるようにすべきです。
とは言っても、行政書士業界はもともと?今の弁護士業界のような、いやそれ以上に資格をとったからといって何の生活の保証もないような業界です。だから、弁護士は今までが守られすぎていたという考え方もあります。普通の資格になっただけとも言えます。それがいいことなのかどうか、ということです。