規制緩和と行政書士

資格といってもいろいろある。最も資格らしいという言い方も変だが、資格と聞いて通常イメージするのが、独占業務のある資格である。狭義の資格といっていいかもしれない。その資格がなくその仕事をすることが違法になるものである。医者、弁護士が、代表的だが、司法書士、行政書士、社会保険労務士、税理士、公認会計士なども独占業務がある。自動車免許は、仕事ではないが、やはり免許なしに運転することは違法だ。
これに対し、中小企業診断士、マンション管理士などは名称独占資格といい、資格なしに名前を名乗ることが、違法になる。仕事の内容自体は規制されないわけである。
これ以外に、各々の業法で義務付けられている資格がある。不動産業の宅地建物取引主任者(現在は、宅地建物取引士)などだ。運送業、旅行業などそれぞれに定められている。これらは、それぞれの事業自体を適正に行うための規制であり、資格を持っている個人が個人として何かできるわけではない。
それで、独占業務の定められた資格のある由縁だが、これらが誰でもできるとなり野放しになると、人々の生命、身体、財産に重大な影響があるからと考えられる。ニセ医者、ニセ弁護士が問題なのはわかりやすい。また、司法書士や税理士にしても、登記や税務は細かな規定が多く、非常にテクニカルな面もあるので、十分な知識をもったものに担わせるべきだということになる。実際、司法書士試験は具体的な登記の方法などを細かに聞く問題があり、実際の登記申請書を書かせる問題もでる。また、弁護士にしても司法書士にしても合格後も研修という形で実務を仕込まれるように制度化されている。
それにひきかえ、行政書士の試験は、実務に関することは問われない。また、合格後も研修が現状では制度化されていない。こんなところも、理由なのか、行政書士の独占業務などなくしてしまえ、という意見があるようだ。誰でもできるようにしようということなのだが、たしかに、表面的には、つまり例えば「行政に対する手続き方法」だけをとってみれば、そんなもの難しくもなく、誰でもできるといえる。しかし、それを言い出せば、登記申請だって、税務申告だって、裁判だって、手続き面だけとってみれば、誰でもできるという話になる。
大切なのは、なぜその手続をするのか、である。それを判断できるバックボーンがなければどうしようもない。現在の行政書士試験は、そこを判断していると理解している。だから、行政書士の関わる手続自体に簡単そうなものあるからといって、業務を開放しようというのはおかしな主張であろう。業務範囲が、広大にわたっているからこそ、一定の見識を求めるべきだ。