ウェブ制作会社はだれを満足させるべきなのか

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ウェブ制作者とそのクライアントとのトラブルは往々にして発生する。
ウェブ制作者は,フリーランス(個人事業)も多く,法人であってもごく小規模なところがほとんどである。
そうなるとトラブル防止のためには,どのような契約をすべきかといった点にまで手が回っていなことが多い。
一方で,ウェブ制作とひとことで言っても定義は多様であり,様々な成果物の集合体であるため,クライアントとの行き違いの生じない意思疎通が極めて重要である。

この問題を巡って考えさせられる記事が少々話題になっている。
低レベルすぎるウェブ制作会社に注意!客の要求無視、逆ギレして成果物全部削除&連絡拒絶(Business Journal 15/7/6)
(現在,リンク先の記事はなくなっています)
この記事に対する当の制作会社からの反論,抗議が以下である。
ネットニュース等に掲載されました弊社を誹謗中傷する記事について

結論から言えば,件のウェブ制作会社はモンスタークライアントにつかまったむしろ被害者であるとの見方が強くなっているようだ。しかし,できることならばこのようなトラブルに巻き込まれること自体を回避したいものである。

ウェブ制作会社とシステム開発会社の根本的違い

システム開発というのは,クライアント自身の使用するシステムを開発するのが通常である。従って,顧客の要望を満たせないことは債務不履行といえよう。その場合,システム開発会社に問題があるのは当然である,しかしウェブ制作の場合はどうか。
実は,クライアントの要求に応えることが,ウェブ制作会社の仕事であるとの考え方がトラブルのもとになる。
特に本件のような,成果物の細かな仕様に非常に強いこだわりを持つような顧客の場合,修正要求などが延々と繰り返されることがある。

果たしてこれらに応えることが,制作会社の責務と言えるのか。
それはちがう。
なぜなら,ウェブを見るのは,クライアントのクライアントだからである。
ウェブ制作会社はクライアントの要求を満たすサイトを制作するのではなく,クライアントのクライアントを満足させるサイトを作らなければならない。それが結局,クライアントの満足につながるのである。
クライアントはウェブ制作に関しては素人である,だからこそ依頼しているわけなのにどうして「あんなイメージ」「こんなイメージ」「この写真をこうして」「あれがしたい,これがしたい」などと指示できるのか。
自分が着る服ならそれでもよいかもしれない,しかしウェブページの制作を自己満足でするのではないだろう。
結果を求めるまともなクライアントならモンスタークライアントには決してならないともいえる。
参考文献を掲げておきます。

このようにあくまでウェブ制作会社のあるべき姿は,クライアントの言いなりに制作するのではなく,クライアントの意見にときによってはあえて反してでも,専門的見地から最大の効果を発揮するサイトを制作し,結果としてクライアントを満足させるという制作姿勢である。

当の制作会社さんのサイトなどを拝見すると,豊富な制作実績が,次から次へと掲げられていて,なるほど立派なサイトを多数手がけられていることはよくわかるが,その説明が,やはり「いかに顧客の要望を実現したか」というトーンになっており,「いかなる結果が出たのか」はどちらかというと副次的要素になっている印象を受ける。
本件でも,この会社が当初からあえて上から目線でクライアントに接していれば(場合によっては依頼を断っていれば),こうした深刻な事態にならなかったのでは,と考えてしまうのである。

これからのウェブ制作会社にもとめられるもの

だからといって,この会社を責めることはできない。というのは,ウェブ制作会社というのはウェブサイトを制作する会社であると,多くのクライアントが思っているし,制作会社もまたそう思っているからである。
しかし,これからはそのような会社は生き残ってはいけないであろう。いうまでもなくウェブサイトを持っていることが珍しい時代はとっくに終わったし,いかに素晴らしいデザインでも結果が伴わなければ意味がないわけであるから。
コンサルティングやマーケティングの領域まで一貫してサービスを提供できないのなら,単なる制作部門に甘んじるしかなく,顧客から直接依頼されること自体が減少していき,結果をだすコンサルタントにウェブ制作も含めて一括して発注する流れが強まるであろう。